夜尿症に使うお薬について、パパ薬剤師でありNPO法人こどもとくすりの代表でもある中村守男さんにお聞きします(^-^)ノ
ついでに日ごろなんとなく疑問に思っていたお薬のナゾを解明したいと思います←おおげさな。
中村さんよろしくお願いします☆
イクメン薬剤師さんなんて、ニッチな人がお知り合いで本当によかったです~。
こちらこそ、よろしくお願いします!
イクメンかどうかは分からないけど、一応2児のパパです(笑)
○ 薬剤師さんって・・・?
さてさて、店長は薬剤師さんのお仕事というと2つのパターンが思い浮かびます。
ドラッグストアなど市販のお薬メインのお店か、病院の隣によくある「調剤薬局」か。
中村さんは調剤薬局に長くお勤めなんですよね?
どういった患者さんがよく来られる薬局ですか?
僕は小児科の側にある調剤薬局で薬剤師をしています。
小児科を受診した後に「処方せん」を持って薬を受け取る薬局ですね。なので、患者さんのほとんどは「子ども」とその保護者の方になります。
シロウトな質問で申し訳ないんですが、病院での診察の時にお薬の飲み方や副作用のこと先生に聞き忘れてて・・・なんて時に薬剤師さんに相談してもいいんですか?
もちろん、構いませんよ!
実は「お薬の飲み方や副作用のこと先生に聞き忘れて」という質問はよくあります。
ただ診察を見ている訳ではないので、医師ほどは答えられないですね。
基本は「薬剤師」なので、薬の事に関しては詳しく話してくれるでしょう。
○ おねしょ(夜尿症)のお薬って・・・?
では、夜尿症のお薬についてお聞きしたいと思います^^
おねしょの薬がよく出る季節とかってあるんですか?
一年トータルしてみると、冬場が全体的に多いです。
しかし、夏休み(合宿前)や春休み(進級前)にもスポットで増える事がありますね。
おねしょの薬ってカタカナの名前が色々・・・とっつきにくい印象なんですが、どんなものがあるんでしょう?
まず、その分類は大きく分けると
〇 三環系坑うつ薬
〇 副交感神経遮断薬
〇 坑利尿ホルモン薬
この3つですね…!
名前だけ見るとよくわからない、というか怖そうなんですけど(^^;)
「うつ」とか、「遮断」とか。
そうですね…!(^^;)
確かにこの名前だけ聞くと
「えぇ!うつ病の薬?うちの子はうつじゃ無いのに!」
と思う方もいるかもしれません。
「うつ」「遮断」「ホルモン薬」…
こんな単語が並ぶ名前だと「何となく怖い」イメージですが実際に小児医療の現場では良く使われている薬ばかりです。
でも、薬はあくまでも治療をするための「道具」。
パパやママが、その「道具」を正しく使うための知識をご紹介します。
よ、よろしくおねがいします!!
〇 三環系坑うつ薬
まずは【三環系坑うつ薬】について説明します。
よく使う薬の名前(商品名)は
・アナフラニール
・トフラニール
・トリプタノール
このあたりが有名です。
また、お薬のポイントとしては
・膀胱にオシッコを溜める働き(坑コリン作用)があります。
・睡眠を深めて、尿意を起こさなくする(睡眠調節作用)があります。
(※現時点でどの作用が最も効果があるかは、はっきりしていません。)
・うつ病にも使うことがありますが、夜尿症でも使う薬なので心配はありません。
・効果が見られない時は、漫然と続けずに医師と相談してください。
…に、なります。
何か副作用はありますか?
そうですね、注意すべき副作用としては、食欲不振・悪心・嘔吐・不眠などです。
もしお子さんに、このような症状が見られた場合には、服用を中止しお医者さんと相談してください。
ちなみに色々種類があるのは、強さがちがうんですか?
それとも製薬会社が違うから薬の名前が違うだけ?
一応、その効果のレベルは薬によって違います。
この3つに関しては、アナフラニ―ルが最も強くて、トリプタノ―ルが最も弱いと言われています。
でも、やっぱりその子によって「薬の合う・合わない」があるのでこの通りではありません。
また、おっしゃるように、同じ成分の薬でも製薬会社によって、別の商品名で出ている事もあります。
ジェネリック医薬品って聞いたことありますよね?テレビとかでもCMしているアレです。
ある製薬会社が薬を開発して特許が切れたら、他の製薬会社も同じ成分の薬を作って良い事になっています。それがジェネリック医薬品です。
なので、先ほど上げた3種類の他にもジェネリック医薬品がいろいろあります。
おくすり専門のサイトで調べるとすぐにわかりますよ。
〇 副交感神経遮断薬
では、次に【副交感神経遮断薬】について説明します。
よく使う薬の名前(商品名)は
・ポラキス
・バップフォー
に、なりますね。
このお薬のポイントは
・膀胱にオシッコを溜める働き(坑コリン作用)があります。
・昼間のおもらしには効果が高いです。
・夜尿症では他のお薬と合わせて使うことが多いです。
・どちらかと言うと、お子さんより高齢者に使うことが多いお薬です。
…と、なります。
あ、お店にも昼間のおもらし用におねしょパンツを買われる方が結構いますね。
副交感神経を遮断するって、どういうことでしょう?
どうしておもらしが治るんですか?
そうですね、分りやすくするためにたとえを使いますと…
膀胱を「水の入った風船」と考えてみてください。その風船は口を下に向けた状態です。
右手で風船の口を絞って水が出ない状態に持って、左手は上から風船を握っています。
この右手と左手は膀胱の働きを調節するもので、
おしっこを出すときには口(右手)をゆるめて、上(左手)からギュッと押します。
逆におしっこを止める時は口(右手)をギュッとしめて、上(左手)をゆるめます。
おもらしは、この右手と左手の力加減がうまくコントロールできないことが原因なので、これを整える事で治療していくのです。
(※かなりざっくりとした説明なので細かい所は省いて説明しています。ご了承くださいませ。)
何か副作用はありますか?
この薬の副作用に関しては大人と子どもで違いがあると言われています。
大人(特に高齢者)に対する副作用としては、口渇・目が乾く・排尿困難等の副作用があります。
また、子どもでの副作用は少ないのですが、たまに頭痛、めまい、のどの渇きなどがあるので、やはり、この薬も同じで もしお子さんに、このような症状が見られた場合には、服用を中止しお医者さんと相談してくださいね。
〇 坑利尿ホルモン薬
では最後に【坑利尿ホルモン薬】の説明をします。
よく使う薬の名前は…
・デスモプレシン・スプレー
・デスモプレシン点鼻液
です。
そして、お薬のポイントは
・オシッコの量を減らすホルモン(抗利尿ホルモン)を補って夜尿を抑える薬です。
・ストローで鼻に液を吹き込むタイプとスプレータイプの2種類があります。
・効果は高いですが、中止すると元に戻る事が多いです。
・普段から使うのではなく、修学旅行や合宿などイザ!という時のみ使いましょう。
・寝る前の水分量は控えるようにしましょう。
と、なります。
「点鼻」って、鼻に薬を入れるんですよね(汗)
ツーンって痛くなりませんか?
小学生くらいなら、こどもが一人でもできますか?
*2012年に舌下で溶かして飲みこむタイプのお薬も出たそうです。
中村さん情報提供ありがとうございます(^-^)ノ
大量に鼻に液体を入れる訳ではないので、個人差はあると思いますがそれ程痛みはありません。
また、小学校中学年くらいであれば、一人で出来ると思います。
スプレータイプは簡単なのですが、液体タイプはストローで量を調節しないといけないので、ある程度出来るようになるまでは、しっかりとママやパパが付いていた方が良いでしょう。
何か副作用はありますか?
そうですね、「寝る前(2~3時間)の水分を控える」という生活習慣が出来ていれば、ほとんど副作用は無いと言われています。
ただ、水分を多く取っていると「水中毒」になる可能性があります。
頭痛・吐き気・嘔吐などあれば様子をみて、必要な場合は受診した方が良いでしょう。
また、効果はNo.1ですが、止めると再発する事が多い薬です。
修学旅行や合宿などスポットで使う事をお勧めします。
いつも使ってると薬に体が慣れてしまって「ここぞ!」というときに効かなくなる可能性もあるんでしょうか・・・!?
微妙な問題ですが、どの薬にも慣れはあるので、可能性は否定できません。
また、この薬で100%効果が保証できるわけではないので「ここぞ!」のタイミングで効かない事も考えられます。
じゃあ、お薬を使うのであれば、余裕をもってお泊り本番の1か月くらい前には病院に行ってどの薬が効くか試した方がいいですね。
当店でも、旅行や合宿対策として「この日に間に合うように!」とおねしょパンツ+パジャマをご注文される方が結構おられるんですよ。
そういうグッズとお薬を組み合わせて、学校の引率の先生方の協力もお願いするなど万全の体制を整えて合宿チャレンジしたいですね☆
確かにそうですね!
薬も使うけど、もしもの為に専用のパンツやパジャマがあると本人も安心だと思います。その安心感が大切なのかもしれませんね。
色んなお薬のことを教えていただきましたが、お医者さんが診察をして「あなたにはこの薬」って決めていくんですよね? 1回でバッチリ合うお薬が見つかるものなんですか?
それともあれこれ試しながら・・・ということになるんでしょうか。
治療をしていく上での診断の基準があるので、医師はそれに沿う形で「この子はこのタイプだから、こっちの薬が良いだろう。」と決めていきます。
患者さんからの情報が的確であり、かつ医師の経験が多いほどピッタリの薬が直ぐに見つかる可能性が高いでしょう。
使うのをやめるとまたおねしょが戻っちゃうんですか?
薬によって、大きく差が開きます。
先ほど最後に説明したデスモプレシンはまた戻っちゃう事が多いですね。
また、薬をやめた事で不安になって戻るケースもあるようです。
実際に僕自身が小児医療の現場で感じるお薬の効果は、その子によりけりだと思います。
短期間で終わる子もいるし、繰り返し使う子もいます。
〇 薬はあくまでも道具。
始めの方でも少しふれた事なのですが、僕は「薬はあくまでも道具」だと思っています。
たとえば、「包丁」だって料理をするための道具ですよね?
上手に使えば美味しい料理を作る事が出来ます。
でも使い方に慣れていないと、怪我をする事もあります。
下手したら、それで誰かを傷つける事も出来るのです。
簡単に道具に頼りすぎたりむやみに噂だけで恐れたりする事が最も危険です。
道具はどこまでいっても道具です。
その道具に正しい使い方で接する事が、お子さまにとってもママやパパにとっても最も大切な事だと思います。
なるほどー・・・。
今回お話を聞いて、正しい知識がだいぶ身についた気がします。
むやみに恐れるのではなくて、どんどん質問して、自分でも調べて、理解したうえでお薬を使いたいですね。
○「お薬手帳」を活用しましょう。
ところで、夜尿症のお医者さんとかかりつけのお医者さんが違う時もあると思います。
薬の飲み合わせなど注意したほうがいいことはありますか?
お医者さんや薬剤師さんに、どんな風に相談したらいいんでしょう?
そうですね。最も大切なことは「事実を伝える」という事です。
「おねしょの薬を飲んでます。」と言うタイミングを逃してしまって「話せないまま帰宅」なんて事があるかもしれませんが、それが最も危険です。
今、どんな薬を飲んでいて、どんな治療をしているのか?という事実をしっかり伝えて下さい。
事実を伝える事が正しい診断につながり、それがお子さんのためになるのです。
…とは、言ってもなかなか難しいのが現実だと思います。(^_^;)
口頭で話す事に抵抗がある場合や、緊張して言えない場合は「おくすり手帳」を使うという方法があります。
単純に、飲んでいる夜尿症のお薬の記録ができるだけで無く、そこにお子さんの症状を記録しておく事も可能です。
その記録を振り返る事で、「ああ、この子は週明けの学校に行く前にオネショが増えるな。」とか、「夏場は冬場の半分だから、夏にお薬の量の調節を医師と相談しよう。」という新しい気づきが生まれるかもしれません。
また、医師や薬剤師に聞きたい事をメモしておくと、それを見ながら話しも出来るでしょう。
昨日はママが一緒に受診したけど、今日は別の家族が一緒に受診することもあるかもしれません。
そんな時にも、おくすり手帳に必要な事を記載しておき、それを医師や薬剤師に見せる事で正しい診断や、飲み合わせのチェックに繋がるのです。
お子さんを中心にした「家族と医療人との連絡帳」みたいなものと考えて使ってもらえると、その子の治療に大きな貢献になると思います。
なるほど。
そういえば、以前お引越しをした時に新しいお医者さんのところに行って、うちの子の喘息の発症時期とか発作の頻度、予防のために使ってた薬の種類とか量とか聞かれたときに記憶があやふやでとってもアセったんですよね(汗)
兄弟揃って喘息なのでちょっと記憶がごっちゃになってて・・・言い訳ですけど^^;
でもおくすり手帳を毎回薬剤師さんに渡して貼っていただいてたのでそれを先生に見せたらOKでした!
最初に喘息のお薬をもらったとき=およその発症時期
病院に行って薬の追加をもらった頻度=発作の頻度
・・・お薬の記録って、自分や家族の体調の記録なんですね~。
そうですね。
もしかすると、お子さんが大きくなった時に、その記録されたおくすり手帳を見て「ああ、こんなに家族に大切にされていたんだな…。」って思うかも知れません(^^)
〇 治療だけでなく、生活の質の向上を!
中村さんとは子育て支援活動のあれこれで以前からお知り合いなわけですけど、私がネットショップをしてることは最近カミングアウトしたんですよね(笑)
当店おねしょバイバイ.comはまだまだ小さなお店ですが、おねしょ治療の三原則「怒らない、あせらない、起こさない」を踏まえて「にっこり、ゆったり、ぐっすりなおねしょ生活」をコンセプトにやってます。
1日や2日で治るものではないので、本人もそのご家族も少しでも心地よく過ごせるよう・・・と考えて運営してるわけですが、お店を見た感想というか、このコンセプトどう思います?
このコンセプトは素晴らしいと思います!
なぜかというと、医療の世界でも辛い治療ばかりでなく患者さんのQOL(quality of life:生活の質)を向上させる事が大切だとも言われています。
だから「にっこり、ゆったり、ぐっすりなおねしょ生活」というのは親と子どものQOL向上という視点で、ぜひ取り入れるべきポイントですね!
ありがとうございます(*^-^*)
では、中村さんが代表をされてるNPO法人の活動について少し教えてください。
僕が代表を務める「NPO法人こどもとくすり」は、「医療人とママパパをつなぐ、情報の架け橋」だと思っています。
医療人は、難しい言葉で子どもの医療・健康の情報を伝える傾向があります。
しかし、それはママやパパが本当に求めている情報ではない事が多いのです。
僕は、これまでに延べ10万人以上(1日100人以上)のママさんに投薬する中でやっとその事に気づきました。
また、自分自身が育児に主体的に関わることで、ママさんたちの本当のニーズが見えてきたのです。
小児医療に関わる医療人が、もっと子育て目線になって情報を提供する必要があると思っています。
そういう意味で「NPO法人こどもとくすり」は、医療・健康の情報を子育て現場のニーズに合った形で提供する事を目的としています。
その手段として、ママさん向けの「こどものけんこう講座」を行ったり、子育て目線に立った「こどもおくすり手帳 けんこうキッズ(※)」を販売したりしています。
今後も、ママさん向け講座やWebでの情報発信など定期的に続けて行こうと考えています。
また、「こどもおくすり手帳 けんこうキッズ(※)」のような新しい企画や商品も提案し続けようと思っています。
そしてこの活動が、子どもの笑顔、ママやパパの笑顔につながる事を信じています♪
※「こどもおくすり手帳 けんこうキッズ」は、九州大学平井研究室「こども×くすり×デザイン実行委員会」と「NPO法人こどもとくすり」のコラボの企画商品です。
我が家でも「こどもおくすり手帳」大活躍ですよ^^
わかりやすいお話ありがとうございました!
これからも宜しくお願いいたします。
パパ薬剤師・中村さんとおねしょバイバイ店長が西日本新聞の取材を受けました^^
(平成25年6月24日 西日本新聞朝刊)
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パパ薬剤師 中村守男 (プロフィール)
福岡大学薬学部卒業。
さまざまな診療科の調剤薬局を経験後、薬局M&Aチーム管理薬剤師として就任。
ある小児科門前薬局のM&Aの際に小児の24時間対応に体調を崩し、そこで経験した「こどもの医療・健康」に関する社会のゆがみに疑問を持ち始める。
また同じ頃に長男が誕生したことも重なり、子育て支援の必要性を実感。
その後、主に小児科の薬を扱う薬局に勤務しながら2006年11月「子どもの薬を考える会」を設立、代表として就任。
2009年1月「NPO法人こどもとくすり」を設立、理事長就任。
現在は、子どもの医療・健康に関する講演・コラム執筆・コンテンツ企画などを展開中。